生成AIの普及が進み、学習段階と生成・利用段階を分けて考える枠組みや、法第30条の4をめぐる整理が国内外で進んでいます。文化審議会の「考え方」や文化庁のチェックリストが示され、EUや米国では制度の線引きも異なります。一方で、現場では自社の資料や自分の作品をAIに読ませてよいのか、生成物が既存の著作物に似ていたときに何を確かめればよいのか、判断に迷う場面が増えました。目の前の業務や制作物について、どこまでが許され、どこから侵害になり得るのか、自分ごととして説明できるでしょうか。本記事を読むと、学習・生成・利用の各段階で何が争点になっているかが分かり、類似性と依拠性の見方、権利制限の範囲、公開前に確認する順序を判断できるようになります。
この記事は、総合解説「AI著作権は文化庁の考え方でどう整理?学習と生成の2段階」の詳細編です。全体像はそちらをご覧ください。
この記事の要点
(最終更新:2026年10月8日)
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生成AIと著作権問題、いま何が争点になっているのか
図:生成AI著作権、日本と海外の制度比較(出典:[1][3])
生成AIと著作権をめぐる議論では、まず「開発・学習段階」と「生成・利用段階」を分けて考えるのが基本です。日本では、平成30年著作権法改正で導入された著作権法第30条の4が、著作物に表現された思想や感情を自ら享受し、または他人に享受させることを目的としない利用を認めています[3]。生成AIの開発で行われる機械学習は情報解析そのものだと整理され、開発・学習段階ではこの権利制限が基本的に認められるという立場が示されています[3]。
新しい争点の一つは、享受目的の有無をどう判断するかです。文化審議会が2024年3月15日に公表した「AIと著作権に関する考え方について」は、開発・学習段階と生成・利用段階で享受目的を別個に判断する枠組みを示しました[3]。出力が既存著作物に類似していても、それだけで享受目的ありとは判断しないとされています[3]。
もう一つの争点は、権利制限の例外の範囲です。同考え方は、法第30条の4ただし書きが適用される場合をかなり限定して想定しており、データベースの著作物を情報解析目的で複製するような例を挙げています[3]。作風や画風が類似する生成物については、アイデアと表現の二分論に従い、原則として著作権侵害にならないという立場です[3]。
海外では制度の作りが異なります。EUではDSM著作権指令が2019年6月7日に発効し、第3条が学術研究目的のテキスト・データマイニングを、第4条がそれ以外のテキスト・データマイニングを規定しています[1]。第4条には権利者の留保規定があり、第3条には契約によるオーバーライドの禁止が定められています[1]。EUではAI規則が2021年に提案され、2024年3月には欧州議会で最終案が合意されました。今後欧州評議会の承認を得て2026年頃より施行される見込みとされています(2024年3月末時点)[1]。このAI規則では、汎用目的AIに対し、DSM指令第4条の留保規定の最先端技術による特定・尊重や、学習に関する要約文章の開示が求められる内容が含まれています[1]。
米国は権利制限の有無をケースバイケースで判断する立場をとり、中国は著作権法で権利制限を定めています[1]。同じ「AIと著作権」でも、国によって線の引き方が違うのです。
AIの学習段階は著作権法上どう扱われるのか、30条の4で整理する
図:AI学習段階の著作権法上の整理(出典:[1][3])
AIの開発や学習の段階で、著作物を複製したり解析したりする行為が著作権法上どこまで認められるかは、平成30年著作権法改正で導入された権利制限規定である法第30条の4を中心に整理されています[3]。この条文は、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用、いわゆる非享受目的の利用を広く認めるものです[3]。
開発・学習段階では、機械学習はコンピュータによる情報解析そのものであり、著作物に表現された思想又は感情を開発者が自ら享受することは有り得ないため、そもそも享受目的がないとして法第30条の4を広く適用してよいとする考え方があります[3]。文化審議会が2024年3月15日に公表した「AIと著作権に関する考え方について」も、開発・学習段階での権利制限を基本的には認めるスタンスを前提としています[3]。
同考え方は、生成AIの出力により既存著作物の類似物が生成されても、それだけでは享受目的ありと判断しないとの見解に立っています[3]。権利制限が否定される場合は、既存著作物の類似物の生成が「著しく頻発」するような場合などに限定されているとされています[3]。
ただし書きによる例外、すなわち原則どおり著作権侵害となる場合については、かなり限定された場合のみ想定されています[3]。具体的には、大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合に、当該データベースを情報解析目的で複製等する行為などが挙げられています[3]。また、AI学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられています[3]。
一方、諸外国の制度を見ると、EUではDSM著作権指令の第3条が研究組織や文化遺産機関による学術研究目的のテキスト・データマイニングを、第4条がそれ以外のテキスト・データマイニングを規定しています[1]。第3条には権利者の留保規定がなく契約によるオーバーライドも禁止されていますが、第4条には権利者の留保規定があり、データの蓄積期間や補償金の扱いでも差異が設けられています[1]。こうした区分についても、研究組織が開発したAIを民間企業が商用利用する事例があり、区分そのものの実効性には課題があるとされています[1]。
学習段階の扱いは、生成物の使い方と地続きに見えて、実は別の判断軸で整理されているのですね。
自分の作品や自社の資料を生成AIで使うとき、どこから侵害になり得るか
図:AI生成物の著作権侵害判断(出典:[4][5])
生成AIで自分の作品や自社の資料を扱うとき、どこからが著作権侵害になり得るのでしょうか。文化審議会著作権分科会法制度小委員会が令和6年3月15日に発表した「AIと著作権に関する考え方について」では、生成AIによる生成・利用行為は既存著作物の著作権侵害となる可能性があるとされています[4]。侵害の判断は、従来の創作と同様に「類似性」と「依拠性」の両方が認められる場合に行われます[4]。
類似性は、単なる同一性ではなく、既存著作物の「表現上の本質的な特徴」が感得できるかどうかで判断されます[4]。AI生成物も人手による創作物と同様に判断され、本質的な特徴は事例ごとに個別に判断されます[4]。
依拠性は、類似性があるうえで、著作物の内容を認識・接触していたと推認できるかが基準です[4]。生成AIでは利用者が学習内容を知らないケースがあり、従来とは異なる点があります[4]。利用者が既存著作物を認識していた場合は依拠性が認められます[4]。利用者は認識していなくても、学習データに著作物が含まれていれば、客観的にアクセスがあったとみなされ、通常は依拠性ありとされます[4]。ただし、創作的表現を出力しないよう技術的に担保されていれば、依拠性が否定される可能性もあります[4]。利用者も認識せず、学習データにも含まれていない場合は、類似していても偶然の一致とされ、侵害は成立しません[4]。
侵害が認められると、差止請求は故意・過失の有無に関係なく可能です[4]。損害賠償請求は故意または過失が必要で、刑事罰は故意がある場合に限られます[4]。故意・過失がなくても不当利得返還請求が認められる可能性があります[4]。生成時は合法でも、利用段階で侵害に該当することもあります[4]。
権利者側の対応としては、依拠性の判断のために、AI開発者に学習データの開示を求めることが可能な場合があります[4]。自社コンテンツと似たものが発表された場合の対処法や、AI学習への利用を防止する方法が企業の課題として挙げられています[5]。
自分の資料をAIに読ませる場面は、大切な書類を誰かに預ける感覚にどこか似ているかもしれません。
文化庁のチェックリストとガイダンスは、実務でどう使えばいいのか
図:文化庁チェックリストの実務での使い方(出典:[6])
文化庁著作権課が発表した「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス(令和6年7月31日)」は、生成AIが作成するコンテンツに関して、著作権をどのように扱うべきか、またそのリスクをどう管理するかについての指針を提供しています[6]。この資料は大きく二つの部分で構成されています[6]。
第1部は「AI開発・提供・利用のチェックリスト」です[6]。主に生成AIを開発、提供、または利用する企業や個人が、著作権リスクを軽減するために実行すべき措置を示したものです[6]。このチェックリストは、文化庁の「考え方」や内閣府、総務省、経済産業省のガイドラインを踏まえ、ステークホルダーごとに必要な対応策をわかりやすく紹介しています[6]。
第1部では、AIに関わる関係者を四つに分類しています[6]。
リスク低減策のポイントとしては、学習データの収集が著作権法に抵触しないようにするための方策や、海賊版や不正アップロードされたデータを学習データとして使用しないこと、学習データに基づいた著作物をそのまま出力するような学習方法を避けることなどが提案されています[6]。また、生成された内容が学習データに類似しないようにする技術的措置を採用することも推奨されています[6]。
第2部は「権利者のためのガイダンス」です[6]。著作権者や実演家などが自らの著作物の利用に関する権利をどう守るか、AIが生成したコンテンツに自分の著作物が関わる場合にどう対応すべきかに焦点を当てています[6]。自分の著作物が生成AIでどのように利用される可能性があるのか、著作権侵害を立証する方法とその場合の対抗措置、権利を守り適正な報酬を得るためにできることが説明されています[6]。
実務では、まず自社や自身がどのステークホルダーに当たるかを確認し、該当するチェックリストの項目を一つずつ点検する使い方が考えられます[6]。権利者側は、AI生成物が自分の著作物に類似している場合に、類似性や依拠性を確認する必要があるとされています[6]。AI学習への利用を防ぐための事前措置としては、ウェブサイトにrobots.txtを設定する方法や、作品をAI学習用データベースとして販売する方法が挙げられています[6]。
道具は手元にあっても、それをいつ開くかは日々の判断に委ねられています。
公開前に、AIと著作権の考え方をもとに何を確かめるか
公開前に確かめたいことは、大きく三つに分かれます。開発・学習の段階、生成・利用の段階、そして生成物そのものの位置づけです[7]。
まず資料の位置づけです。AIに著作物を学習させること自体は、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」として、2018年の法改正により認められることになりました(著作権法第30条の4)[7]。ただし、権利が存在する学習データを利用してAI生成物を作成する場合は許諾が必要となり、無断使用の場合は状況次第で著作権侵害として訴えられる可能性が生じます[7]。
次に限界です。各生成AI事業者がどんなデータを学習させているのかは企業秘密であり、それをオープンにすることは極めて難しいとされています[7]。利用者が学習内容を100%知ることはまず不可能です[7]。また、権利制限の対象になるかは国ごとに扱いが異なります。EUでは、学術研究目的のテキスト・データマイニングについて権利者の留保規定がなく、契約によるオーバーライドも禁止されています[1]。一方、それ以外のテキスト・データマイニングについては権利者の留保規定があり、契約によるオーバーライドの禁止規定はありません[1]。米国はケースバイケースとされています[1]。
日本での意味を補います。AI生成物が著作物と認められるかは、人の「創作意図」と「創作的寄与」があるかどうかで判断されるとされています[7]。AIが自律的に生成したものは著作物とは認められないという整理です[7]。侵害かどうかの判断は、通常の創作物に対する侵害と同様の基準で行われ、既存の著作物との類似性と依拠性が認められ、権利制限規定の対象外であれば侵害となるとされています[7]。
公開前に取れる行動としては、学習段階・生成段階・生成物の三段階に分けて自問することが挙げられます[7]。使った資料は何か、既存の著作物を認識していたか、似ている部分は表現かアイデアか。この順番で確認するだけでも、判断の輪郭は見えてきます[7]。
編集長の眼
生成AIと著作権の議論を眺めていると、私たちは「線引き」というより「地図のない散歩」をしているような感覚に陥ります。日本は30条の4で学習段階を広く認め、生成物は従来の類似性・依拠性で判断する。EUは指令で段階を分け、米国はケースバイケース。同じ問いでも国ごとに答えの形が違うのです。だからこそ読者に確かめてほしいのは、「どの国の、どの段階の話か」という前提です。次に、自社や自分が文化庁のチェックリストでいう4者のどこに立つかを確認する。開発者なら学習データの出所、利用者なら依拠性の有無、権利者なら類似性の立証。順番を飛ばすと判断を誤ります。AIは便利な道具ですが、著作権は「誰の何を、どう使ったか」を記録する営みでもあります。公開前に三段階で自問する習慣を、私たちは暮らしの中に少しずつ組み込んでいけるはずです。
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よくある質問
Q. 生成AIで作った画像や文章の著作権は誰のものですか?
AI生成物が著作物と認められるかは、人の「創作意図」と「創作的寄与」があるかどうかで判断されます[7]。AIが自律的に生成したものは著作物とは認められないという整理です[7]。また、権利が存在する学習データを利用してAI生成物を作成する場合は許諾が必要となり、無断使用の場合は状況次第で著作権侵害として訴えられる可能性が生じます[7]。
Q. AIに著作物を学習させることは著作権侵害になりますか?
開発・学習段階では、機械学習は情報解析そのものであり、著作物に表現された思想又は感情を開発者が自ら享受することは有り得ないため、そもそも享受目的がないとして法第30条の4を広く適用してよいとする考え方があります[3]。文化審議会の「AIと著作権に関する考え方について」も、開発・学習段階での権利制限を基本的には認めるスタンスを前提としています[3]。ただし、データベースの著作物を情報解析目的で複製するような場合はただし書きが適用される例として挙げられています[3]。
Q. 自分の作品が生成AIに使われたとき、権利者は何ができますか?
権利者側の対応としては、依拠性の判断のために、AI開発者に学習データの開示を求めることが可能な場合があります[4]。文化庁のガイダンスでは、著作権者や実演家などが自らの著作物の利用に関する権利をどう守るか、AIが生成したコンテンツに自分の著作物が関わる場合にどう対応すべきかに焦点を当てています[6]。AI学習への利用を防ぐための事前措置としては、ウェブサイトにrobots.txtを設定する方法や、作品をAI学習用データベースとして販売する方法が挙げられています[6]。
出典・参考資料
- 94080501_14.pdf(参照日:2026年10月8日)
- AIと著作権に関する考え方について」の調査研究~権利制限規定著作権法第30条の4の解釈の勘所~(参照日:2026年10月8日)
- 「AI と著作権に関する考え方について」を読み解く(6)、許諾にかかわるTIPS~原典がある場合の対応(孫引き)~:CCSフラッシュNo.052(参照日:2026年10月8日)
- 知らないでは済まされない!生成AIと著作権④生成AIによる自社コンテンツ侵害への対処法|AirCourse(参照日:2026年10月8日)
- AIと著作権に関する チェックリスト&ガイダンス(文化庁)のご紹介(参照日:2026年10月8日)
- isaka.pdf(参照日:2026年10月8日)
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記事監修: 鈴木隆文
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